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2026.07.17

【長期修繕計画の作成ポイント】賃貸経営で失敗しない維持管理と空室対策

【長期修繕計画の作成ポイント】賃貸経営で失敗しない維持管理と空室対策

賃貸アパート・マンションの経営において、入居者が退去する際に必ず直面するのが「原状回復」の費用負担をめぐる問題です。

「部屋が汚れているから敷金から全額差し引きたい」「入居者は『普通に住んでいただけだ』と主張して支払いに応じない」といったトラブルは、多くのオーナー様が抱える悩みの一つではないでしょうか。

もし原状回復に関する正しい知識がないまま感情的な請求を行ってしまうと、裁判などの深刻なトラブルへ発展するだけでなく、口コミサイトやSNSで悪評が広がり、将来的な入居率にも悪影響を及ぼす可能性があります。

そこで重要になるのが、国土交通省が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の理解です。(参考:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」 )

本コラムでは、原状回復における貸主(オーナー)と借主(入居者)の負担区分の考え方や、トラブルになりやすい特約の注意点、未然にトラブルを防ぐための具体的な対策について解説します。

 

 

1.賃貸経営につきまとう「原状回復」トラブルの実態

賃貸物件の契約で最も多いトラブルの一つに、退去時の原状回復があります。

オーナーと入居者のどちらが費用を負担するのか、その範囲や金額について双方の解釈が異なるため、トラブルになりやすいのが実情です。 

1-1. 消費生活センターに寄せられる相談の約4割が原状回復

国民生活センターには賃貸住宅に関する相談が毎年多数寄せられています。その中でも、退去時の原状回復費用に関する相談は特に多く、代表的なトラブルとして継続的に注意喚起が行われています。(参考:国民生活センター

また、全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)でも、原状回復に関する相談件数は高い水準で推移しており、賃貸住宅における重要な課題の一つとなっています。(参考:PIO-NET

1-2. トラブルがオーナーの賃貸経営に与える悪影響

原状回復を巡るトラブルは、オーナー様にとって百害あって一利なしです。

借主との間で交わす建物賃貸借契約において、一方的に貸主に有利で借主に不利な原状回復の取り決めをすることは、消費者契約法の規定により無効とされる可能性があります。

さらに、トラブルが長引けば次の入居者募集が遅れ、空室期間の長期化につながります。また、不当請求と受け取られれば口コミやSNSなどで評判が拡散し、今後の募集活動にも影響を及ぼしかねません。

 

 

 

2.「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の基礎知識

このような退去時の原状回復トラブルを未然に防止するために、国土交通省が取りまとめたのが「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」です。 

2-1. 原状回復ガイドラインとは何か?

原状回復ガイドラインは、退去時に貸主と借主のどちらが負担するのが妥当なのかについて一般的な基準を示したものです。(参考:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」 )

1998年(平成10年)に公表され、その後も裁判事例や実務の蓄積を踏まえて改訂が重ねられてきました。法的拘束力そのものはありませんが、裁判所でも参考にされる重要な指針となっています。

2-2. 基本的な考え方:「借りた当時の状態に戻すこと」ではない

原状回復と聞くと、「新品の状態に戻すこと」と考えてしまいがちですが、これは誤解です。

ガイドラインでは、賃借人の故意・過失や善管注意義務違反などによる損耗を復旧することが原状回復であると定義しています。

つまり、普通に生活していて発生する自然な劣化や汚れについては、借主の責任ではありません。

2-3. 2020年の民法改正で「通常損耗・経年劣化」のルールが明文化

2020年4月施行の改正民法では、この考え方が法律上も明文化されました。

民法第621条では、経年劣化や通常使用による損耗については、借主に原状回復義務がないことが規定されています。(参考:e-Gov法令検索(民法)

 

 

3.貸主(オーナー)負担となるケースと具体例

3-1. 経年劣化や通常損耗は「家賃に含まれる」

建物は時間の経過とともに価値が下がります。また、日常生活の中で避けられない細かな傷や汚れも発生します。

こうした経年劣化や通常損耗の修繕費用は、毎月の家賃の中に含まれているという考え方が基本です。

そのため、退去時に借主へ追加請求することはできません。

3-2. ガイドラインで示されている貸主負担の具体例

ガイドラインでは、以下のようなケースは貸主負担とされています。

・家具設置による床のへこみ
・テレビや冷蔵庫の裏の電気ヤケ
・画鋲程度の小さな穴
・日焼けによるクロスの変色
・自然発生した網入りガラスのひび割れ
・設備機器の寿命による故障

3-3. 次の入居者確保のためのグレードアップやハウスクリーニング

設備の交換やリフォームなど、次の入居者確保のために行うグレードアップ工事は貸主負担となります。

また、通常使用の範囲で退去した場合のハウスクリーニングやワックスがけなども、原則として貸主負担です。

 

 

4.借主(入居者)負担となる「善管注意義務違反」とは

一方で、借主の使い方に問題があった場合は、借主へ原状回復費用を請求することができます。

4-1. 借主が負担すべき3つのポイント

借主負担となるのは、

・故意による損傷
・過失による損傷
・善管注意義務違反

の3つが基本です。

善管注意義務とは、社会通念上求められる注意を払って物件を使用・管理する義務を指します。

4-2. ガイドラインで示されている借主負担の具体例

ガイドラインでは、以下のようなケースは借主負担になると例示されています。

・飲みこぼし等の手入れ不足によるカーペットのシミ・カビ
・引越作業等で生じた引っかきキズ
・日常の清掃を怠ったため付着した台所の油汚れやスス
・結露を放置して拡大したカビ・シミ
・クーラーからの水漏れを放置して発生した壁等の腐食
・タバコのヤニや臭いによるクロスの変色
・下地ボードの張替えが必要な釘穴やネジ穴
・ペットによる柱や床のキズ、臭い
・日常の手入れ不足による浴室やトイレの水垢・カビ
・鍵の紛失や不適切使用による破損

これらは通常の生活によって発生する損耗とは異なり、借主側の管理不足や使用方法に起因するため、原状回復費用の請求対象となります。

4-3. 【重要】耐用年数と経過年数による負担割合の計算

借主の過失で壁紙を汚してしまった場合でも、新品への交換費用をそのまま全額請求できるわけではありません。

国土交通省のガイドラインでは、設備や内装材は時間の経過とともに価値が減少するという考え方が採用されています。

そのため、借主負担額を算出する際には「経過年数」を考慮する必要があります。

例えば、壁紙(クロス)やカーペットの耐用年数は6年が目安とされています。新品時の価値を100%とした場合、6年経過すると価値はほぼゼロと評価されます。

仮に新品のカーペットを設置した部屋に3年間入居した後、借主の過失で張り替えが必要になった場合、残存価値はおおむね50%となるため、借主負担も50%程度となります。(参考:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」 )

このように、経過年数を考慮せずに全額請求することは適切ではありません。適正な負担割合を理解しておくことが、トラブル防止につながります。

 

 

 

5.オーナーが知っておくべき「特約」の有効性と注意点

ここまで解説した通り、通常のハウスクリーニングなどは原則として貸主負担です。しかし、賃貸借契約では双方の合意によって「特約」を設けることが認められています。

5-1. 特約が有効と認められるための3つの要件

契約書に「退去時のハウスクリーニング代は借主負担とする」といった特約を記載していれば、原則としてその内容が優先されます。

ただし、借主に不利な内容であれば何でも有効になるわけではありません。

判例上、特約が有効と認められるためには次の3つの要件が必要とされています。

・特約の必要性や合理性があること
・借主が特約内容を認識していること
・借主が内容を理解し合意していること

一方的な押し付けや説明不足のまま契約した場合は、特約自体が無効と判断される可能性があります。

5-2. ハウスクリーニング特約などを設定する際のポイント

実務上、多くの賃貸物件では退去時のハウスクリーニング費用を借主負担とする特約が設けられています。

ただし重要なのは、「どの範囲を対象とするのか」「いくら負担するのか」を契約書に明記することです。

例えば、

・退去時クリーニング費用〇万円
・1㎡あたり〇円
・エアコンクリーニング費用別途負担

など、具体的な内容を記載しておくことでトラブルを防ぎやすくなります。

また、相場を大きく超える金額設定は認められない可能性があるため注意が必要です。(参考:消費者庁「消費者契約法」)

 

 

 

6. 原状回復トラブルを未然に防ぐための3つの対策

原状回復トラブルは、事前の準備と適切な運用によって大幅に減らすことができます。

6-1. 入居前の契約内容の丁寧な説明と合意

トラブルの多くは「聞いていなかった」「そんなつもりではなかった」という認識のズレから発生します。

契約時には、原状回復の範囲や特約の内容について具体的に説明し、借主が理解したうえで契約することが重要です。

管理会社任せにせず、オーナーとしてもルールを理解しておくことで、後々のトラブルを回避しやすくなります。

6-2. 入退去時の「現状確認書」と写真・動画の記録

「この傷は入居前からあった」「入居中についたものだ」という争いは非常に多く発生します。

そのため、入居時と退去時には現状確認書(チェックリスト)を作成し、双方で確認することが有効です。

さらに、

・室内全体の写真
・壁や床の傷
・設備の状態
・水回りの状況

などを写真や動画で記録しておけば、客観的な証拠として活用できます。

スマートフォンで簡単に撮影できる現在では、最も費用対効果の高いトラブル防止策の一つと言えるでしょう。

6-3. 専門家(管理会社)同伴での退去立ち会い

退去立ち会いはオーナー単独で行うよりも、管理会社などの専門家が同席する方が安心です。

専門家はガイドラインに基づいて客観的に判断できるため、感情的な対立を防ぎやすくなります。

また、その場で損耗箇所や負担区分を確認できるため、後日のトラブルも減少します。

 

 

 

7. 満室経営の第一歩「賃料査定・空室対策レポート」の活用

退去時の原状回復トラブルを適切に防ぐことは、賃貸経営の安定化に直結します。そして退去後の空室をいかに早く埋めるかが、オーナー様にとって次の課題となります。

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8.おわりに

賃貸住宅の退去時に発生する原状回復トラブルは、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を正しく理解することで、その多くを未然に防ぐことができます。

経年劣化や通常損耗は貸主負担であることを大前提としながら、借主の故意・過失や善管注意義務違反による損耗については、経過年数を考慮した適正な請求を行うことが重要です。

また、特約を設定する際には契約書への明確な記載と十分な説明を行い、入居前後の記録を徹底することで、不要なトラブルを大きく減らすことができます。

原状回復は単なる退去手続きではなく、次の入居者募集や物件価値の維持にも関わる重要な業務です。正しい知識と適切な運用によって、安定した賃貸経営を実現していきましょう。

 

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